「世界から猫が消えたなら」 川村元気
『世界から猫が消えたなら』
著者:川村元気
出版社:マガジンハウス
<簡単なあらすじ>
僕は生きるために、消すことを決めた。今日もし突然、チョコレートが消えたなら 電話が消えたなら 映画が消えたなら 時計が消えたなら 猫が消えたら そして 僕が消えたなら。世界はどう変化し、人は何を得て、何を失うのか。30歳郵便配達員。余命あとわずか。陽気な悪魔が僕の周りにあるものと引き換えに1日の命を与える。僕と猫と陽気な悪魔の摩訶不思議な7日間がはじまった―――
(マガジンハウスHPより引用)
<感想>
郵便配達の仕事をしている30歳の平凡な男性。風邪をこぜらし病院に行くと、風邪ではなく余命は長くて半年、1週間後すら怪しい状態と医者に告げられた。病院から帰った夜、部屋にやたらと明るい"もう1人の自分"がいた。本人いわく「悪魔」だそうで、いつ死ぬか知らせにきた。だが生きられる方法が一つあるという。この世界からひとつだけ何かを消す。その代わり1日寿命が延びると。単純計算すると、265個の何かを消すと1年寿命が延びる。何を消すかは悪魔が決める。ただオプションとして最後に1回だけ消すものを使ってもよい。
とこんな感じのストーリー。
毎回、悪魔から何を消すが告げられる主人公。平凡に暮らしてきたが、死を身近に感じるようになり、あまり深く考えてなかったことを今一度考える。母親のこと、父親のこと、元カノのこと、中学からの親友。大人になって得たものと失ったもの。もう二度と取り戻せない感動や感情。それを思うと無性に悲しくなり涙する主人公。そして世界から猫がもし消えたら……主人公は決断をする。何かを得るためには何かを失なわければならない。死にたくない。死ぬのは怖い。でも何かを奪って生きていくのはもっと辛いと。全ての人間にとって寿命は未知。
決定的だったのは猫の存在。悪魔が気を利かせて猫に魔法をかけ、ある日突然猫が喋るように。時代劇風の語り口だけど、猫目線の疑問が主人公の心に響いたことの一つになってるような気がする。どうして物に名前をつけるの?区別する必要があるの?猫には時間の割り当ても物に対しての名前の区別もなく、自然現象を中心に行動しているだけ。そもそも死の概念があるのは人間だけ。あとはやはり両親のことを考えることにより、大切なもの、この世界に生きている素晴らしさに気付いたこと。それがわかったことで主人公は最後の日を安息日と表現したんだろうか?
個人的に印象的だったのは、悪魔の姿の説明。悪魔という存在は、人間の各々の心の中にあるだけ。その心の中の悪魔という存在にいろいろな像を勝手に描いているだけ。生きていく中で、無数にある小さな後悔、あーしたかった、こうしたかったという後悔。実際しなかった姿が自分の姿で、もしいろいろとしたかったことをやり遂げてる理想の姿が悪魔的な姿だと。なりたいけど、なれない自分。自分に一番近くて遠い存在だと。文中に出てくる悪魔によると、人間というのは、選んだ人生から選ばなかった方の人生を眺めて、羨ましがったり後悔したりする生き物だと。最初はチャラい悪魔だなーと思っていたけど、最後の会話は、なるほど!と思ったり。
最後は主人公が大事なことに気付いたから、悪魔からのご褒美としてどんでん返しがあったりして?!と思ったりもしたんですが、やはりどんでん返しはないのね…。全体的にテンポがよく読みやすいですが、やはり死という重いテーマを扱ってるので私は構えて読んじゃいました。構えすぎちゃうと心に残るものがあまりないかも^^;読後にどんより感がなかったのは救い。
内容が1週間という設定なので、これはもしかしてテレビドラマを想定しているんでしょうか?小説という形で読むより、ドラマ化、あるいは映画化されたらもっともっと感動し面白くなりそうな、そんな1冊でした^^