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「ガンコロリン」 海堂尊

『ガンコロリン』


ガンコロリン

 著者:海堂尊
 出版社:新潮社




・『健康増進モデル事業』
・『緑剥樹の下で』
・『ガンコロリン』
・『被災地の空へ』
・『ランクA病院の愉悦』

以上、5編からなる短編集。

『健康増進モデル事業』
ひとり暮らしのサラリーマン、木佐誠一のもとに厚生労働省医療健康推進室から封書が届き、厚生労働省第三種特別企画・健康優良成人策定委員会のモデルに選ばれたと書かれていた。日本国民から無作為に三名選ばれ、半年間、健康を追求し、健康の大切さや素晴らしさを理解するために立案されたという。毎日上司に小言を言われ身体が不安になった木佐は、いかがわしいと思いながらも手紙に書かれていた電話番号に掛ける。担当者である久光に会い、いつの間にか契約締結が完了してしまった。翌日からアシスタントもつけられ人間ドッグを受け、日本一の健康マンになるためのプロジェクトが開始された。人工的な治療は一切許されてないため、不健康の原因を除去していくためアシスタントは木佐のストレス源を次々と除去していった。そのお蔭で健康になるだけでなく、仕事もとんとん拍子で出世し私生活も充実した毎日となった。だがプロジェクト最終審査で三人のモデル中最下位になってしまいアシスタントが外されてしまった。そしてまた木佐の周辺環境はがらりと変わってしまった。

待ち合わせた最上階のレストラン『星・空・夜』ってあのシリーズのレストランだよね?しかもここにいた独り言を大声で言う小太りの男性ってあの方だよね??どうやら室長であるあのお方がこのプロジェクトを企画したみたいだけど、面白いこと考えるなー。このプロジェクトに関わった久光やアシスタントも十分に面白い(久光さんは違う本でも出てきたような気がする)。このアシスタント、業務を完遂するため名前と過去の経歴を一切合切捨ててるので、呼び名は木佐が"アニキ三号"と付けてしまう。アニキって…元阪神の金本選手のファン?んなわけないか。

このプロジェクトいろんな意味で凄い。最初は楽しそうな企画かと思ったけど(やはり歩くことは健康にいいことなのだ)、一人の人間を健康優良にするため周囲がどんどん粛清されていくのはちょっと怖い。木佐が最下位なら他の二人のアシスタントは一体どんなことをやってのけたんだろう?なにより一番怖いのは、次年度のモデルには税務署と国会議員が選ばれてるということ。そこにアシスタントが張り付いたら…結末がおそろしすぎ。風刺ききすぎ。くわばらくわはら。

『緑剥樹の下で』
南アフリカのノルガ王国ステラ・キャメル、ベルデグリの木の下で少年トンバはセイと呼ぶ男に勉強を教わっていた。この木の下で教えることには意味があった。長老が呪いの木だから近寄るなと恐怖ばかりをあおっている。非科学的で間違った考えに異議を唱えるためにわざとこの木の下で教えてるのだった。ある日、トンバの幼い妹のシシィが病気になった。長老はの木に近づいたことで祟ったというがセイはマラリアだと診断するも、二日後に少女は旅立った。セイは祟りの謎の真相を突き止め、長老のところにいた陛下にも伝え、その日を境に祟りは潰滅した。病気の息子アバピを診てもらうため陛下はセイに参内の要請をする。高度な手術が必要だったため、政府軍とゲリラの戦闘と最中、セイが国境なき医師団の宿営地まで少年を送り届けることになる。だがその後セイは危険で無法地帯となっているステラ・キャメルに戻っていった。

情勢がすこぶる悪い南アフリカのノルガ王国で、治療をしながら少年たちに勉強を教えている日本人医師の話。少年がこの男性のことをセイと呼んでいたので私は途中までノルガ王国のセイという名前の男性だと勘違い。ベルデグリの木のことを、シラカバという故郷の白い木を思い出すと言ってる時点で日本人と気付くはずなのにそれさえも気づかず…。さらにさらに、陛下がセイのことを"トカイ"と呼んでたけど、私にはセイはあだ名でトカイというのがこのノルガ王国の男性の正式名なんだと解釈。で、陛下の息子の病気について話すシーンでバチスタ手術という言葉が出てきてやっと気が付いた。

トカイ……と、渡海っ?!セイって?渡海征司郎だ!そういえば『モルフェウスの領域』での感想で、「涼子が中学生の頃、アフリカの領事館で知り合った医務官ってあの人?まさかここで登場するとは思わなかったのでちょっと嬉しい♪」って私書いてる!そうそう、渡海先生のことだと思った記憶が!そうだった、アフリカにいたんだった。医務官だったのにどんな経緯でこの町に……。あまりハッピーな終わり方ではないのでその後の渡海先生が心配。

で、バチスタ手術が必要な陛下の息子アガビ7歳は……、wikiで『チーム・バチスタの栄光』の登場人物欄に「アガピ・アルノイド:南アフリカ、ノルガ共和国の反米ゲリラ少年兵。7歳。アメリカで受け入れ拒否されたため東城大学医学部付属病院でバチスタ手術を受けることになる。」と書かれてる!反米ゲリラ少年兵になってるけど、名前も年も国名も一緒。同一人物かな?

『ガンコロリン』
サンザシ薬品の創薬開発部の木下部長は、営業上がりのため新薬を作り出す研究部門で悩んでいた。なのでこっそり方針転換し新薬をここで開発するのではなく、新薬を開発している大学の研究室とタイアップすることにした。一年が過ぎ、極北大から画期的な薬を開発したと報告があった。早速北海道にある極北大薬学部倉田研に行くと、開発した倉田教授、助教の吉田が新薬について説明する。一言でいうと「飲むだけで癌を抑制できる夢の予防薬」でノーベル賞級以上の開発だった。倉田教授によってガンコロリンという名を付けられた新薬はあれよあれよと異例の早さでIMDA(国際薬事審議会)の薬事申請も通り認可される。日本医師会は懸念を表明するも、ガンコロリン発売後は癌が治る成果を出した。それによって癌治療の外科手術が激減し、外科医の腕は落ちてしまい消化器外科も消滅してしまった。このため外科医は絶滅危惧種と言われたが、癌が撲滅されたためそんな状態も容認されてしまう。ガンコロリンが発売されて二十年、ついにガンコロリンが効かない新たな新型悪性生物の癌が出現。外科手術を必要とする患者は増える一方。だが外科医は絶滅寸前状態で手術できる外科医はいなくなってた。

怖い。物語だとわかっていても現実味があって怖い。新薬を必要とする人から見ると、癌が治る夢のような予防薬が開発されたとなると一刻も早く認可されて欲しいと願うもの。一方で、それによって副作用しかり、何かしらのデメリットもあるわけで、この話はものすごく皮肉な結末になってる。まさかこういう結果になろうとは(><)。地球の免疫機構の戦略は人間より優秀すぎる。新型悪性癌→新薬開発→新型→新薬→新型……と永遠に続くんだろうな。

IMDAに取材に来ていたのは別宮葉子。そう、『螺鈿迷宮』『死因不明社会 : Aiが拓く新しい医療』『医療防衛 -なぜ日本医師会は闘うのか-』で登場した女性。取材で凍眠しているスリーパーの話をしているけど、スリーパーってもしかして『モルフェウスの領域』と何か繋がりある?『ナニワ・モンスター』でもサンザシ薬品が出てくるとか出てこないとか?ガスコロリン対策委員会の菊間は浪速で診療所をやってる開業医って書かれているので、『ナニワ・モンスター』に登場した菊間徳衛かと思われる。ちなみにサンザシの木下部長は調べてみると『ブラックペアン1988』にも登場してるらしい。

『被災地の空へ』
東北地方で大地震が発生。極北救命救急センターにDMAT(緊急災害派遣隊)が招集され、センター長代理の速水晃一は総勢5名で現地に向かう。満島を筆頭に蝦夷大、みちのく大救急、陸奥総合病院、出羽医療センター、浪速市、高尾総合病院のDAMATが揃い受け入れ準備をしていたが、やってくる怪我人は軽傷者ばかりで、津波で溺死した遺体の方がはるかに多かった。速水は死体検案書を書くことになったが、不満げな速水に対し総指揮の岸村が退屈そうな顔で仕事するのは仏さんに失礼だと注意する。また、極北救急で透析患者を引き取ってもらう際に速水に輸送機で患者を搬送してほしいと言う。速水はこの申し出にうなずく。

重傷者を治療することももちろん大事だが、岸本は救急医として命を引き戻すのも、医者として死者を看取るのもコインの裏表。片方だけできるやつはいないと言う。また、極北に搬送する患者と一緒に戻したのも医者として大切なことを教えてくれ、速水先生の成長を考えてくれてのこと。こうやって耳を傾けることが出来る速水先生は医者としてさらなる飛躍をしていくんだろうな。

速水先生はもちろんあの速水先生。看護師長の五條郁美は『極北ラプソディ』にも登場。五條と久しぶりに会った浪速ヘリのパイロットは極北救命のドクターヘリパイロットってことで大槻さん?二人が話す気の利く元極北救命センターCSは越川CS?『極北ラプソディ』の登場人物が多いので、この話は『極北ラプソディ』のその後って感じ?

『ランクA病院の愉悦』
売れない作家の終田千粒(ついたせんりゅう)はツイッターでウケ狙いでこんなペンネームにしたが、見事スベってしまい「おわりだ」と読まれる悲しい結末になっていた。片頭痛が悩みの終田はランクC病院に行くことにする。ランク付け病院というのは……たまたま世の流れで大勝した阿房政権が勘違いして浮かれまくり、TPPによって医療格差が出現。公立病院は一回の支払いが十万以上のランクA、一万以上十万未満のランクB、一万円未満で済むランクCに格付け。という訳で終田はランクC病院で直接先生の診察はない機械によるATMのような人工知能を掲載した自動診断ロボットのトロイカ君に診察してもらい薬を処方してもらう。そんな時、編集者Pが仕事を持ってきた。内容は雑誌「週刊来世」からの依頼でランクA病院とランクC病院を受診し、比較検討し満足度を個人的判断で決めるというものだった。早速依頼人RとランクC病院に行き、その後にランクA病院に行って診断をする。そして終田はあることに気付く。

阿房政権がTPPも参加って……。微妙に名前は違えど現実味ありありだぞ?で、物語ではTPPに参加した途端に自由診療移行にあたり前払いがクレジットカード決済に。支払できなければ受診できないという当たり前のようで一部の人には厳しい結果に。しかも日本医師会によるとランクC病院は診断ではなく星占いレベルと平然と言ってのける。診断を受けたいならランクB以上の病院に行けと。でも結局はどのランクに行っても結果は一緒。こんな医療制度イヤだ(><)。

自動診断ロボットのトロイカ君での診察は、画面上であてはまる項目を選ぶ。「イエス」「ノー」「?(よくわからない)」。「?(よくわからない)」を選ぶと東城大学医学部・不定愁訴外来の紹介状のプリントが出てくる。一応ここに取材依頼するも取材拒否。紹介状持ってるなら受診して欲しかったな~。もしかしたらあの先生が診察してくれたかも(^m^)

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「三匹のおっさん ふたたび」

「三匹のおっさん ふたたび」 有川浩
『三匹のおっさん ふたたび』  

三匹のおっさん ふたたび

 著者:有川浩
 イラスト:須藤真澄
 出版社:文藝春秋



『三匹のおっさん』の続編。
定年退職後に近所のアミューズメントパークで嘱託として働くことになった剣道の達人キヨさんこと清田清一、今は息子夫婦に任せている居酒屋「酔いどれ鯨」の元主人、柔道家のシゲこと立花重雄、娘の早苗と2人暮らしをしており見た目はおとなしい感じだが機械にめっぽう強い工場経営者のノリこと有村則夫。昔「三匹の悪ガキ」だった幼馴染みの3人――今は「三匹のおっさん」がキヨさんの定年をきっかけに物騒になってきた町を守るため私設自警団を結成することに。6話+ボーナストラックから成り立っており次々に起こる問題を解決していく痛快アラ還の世直し物語。


第一話
キヨの息子の嫁、貴子が去年の暮から知り合いの肉屋でパートを始めた。貴子の息子である祐希が反発ばかりしているのはもしかしてお金を稼ぐ苦労もしらない自分を嫌っているんじゃないかと思い、働きに出てお金を稼げば息子との溝を埋めることが出来るのではと考えてのことだった。だが手際が悪く周囲を見ず自分の事で精一杯の貴子は、職場で浮く存在で店のテンポに全く合ってなかった。今すぐにでもパートを辞めたいと思うが、今辞めたら周囲からそら見たことかと言われるのがオチ。それが悔しくて意地でも辞めてたまるか!という意地だけで続けていた。そんな中、年が近い他のパート、小島育代と話すようになり友達が出来たと思われたがトラブルが起こる。

貴子が初めて給料をもらいケーキを買って帰った時、家族みなで一緒に食べようってことになり貴子は恐縮するが、「こういうのは気持ちなんかだら」と義母と夫に言われ、息子もぶつぶつ言いながらもついてくる。このくだりが何だかほっこりしていていいなと思ったり。憎まれ口を叩きながらも母親を心配する祐希もいい。その祐希のことを一番理解しているのが祖父のキヨ。いい感じ☆貴子の話だけれど早苗と祐希のエピソードも少し盛り込まれており、最後の母親の爆弾発言で祐希の顔を真っ赤にさすのはさらに微笑ましい☆


第二話
シゲは購読している将棋雑誌を買うために商店街の「ブックスいわき」に立ち寄った。そこで学生服を着た3人の少年が悪さをしてるのに出くわし、追いかけようとするが店主に引き止められる。店主から万引きの実態を知らされ、シゲは万引きの見張りを買って出た。こうして三匹のおっさんはパトロールを開始する。ある時、娘に万引きをすすめた母親の対応をした本屋の店主は、思うことがあって万引き常習犯の中学生を捕まえて欲しいと3人に頼む。祐希も手伝うことになったある日、その中学生たちが店にやってきた。シゲは万引き少年を捕まえる気でいたが、店主は「万引きをしないで帰ってくれるのが一番」と。万引きする前に抑止する方を望んでいる。だけどこのままだと先日出会った娘に万引きをすすめた母親のような身勝手な親になってしまうと考え、捕まえて親を呼ぶ。警察を呼ばない条件として書店の仕事を手伝わせる。一方、そろそろ進路を考えないといけない祐希と早苗。早苗は一応第一志望は決めているものの、将来のビジョンが全く決まってない祐希はいろいろ考えた末、進路を決める。

万引き常習犯たちに書店を手伝わせ、バイト代を払い書店の売り上げや実利益、さらに1冊売るといくら本屋は儲かるかの話を聞かせる。私も本屋さんがどんな風に儲けているのか全く知らなったから驚いた。有川さんのあとがきを読むとこの第二話に思入れがあるらしい。出版社が取りすぎのように思われるけど、その本を売るためには宣伝や次作の資金が必要。ベストセラー作家の売り上げで新人作家の本が出版できる。なので一冊の本にはいろんな経費や未来への投資が載っている。読者が買うことで作家はまた本を出せる。そうだよね、本にも流通があるんだから当たり前といっちゃ当たり前だよね。最近は本を購入せず図書館で借りるばかりの私には少し耳が痛いよ……。


第三話
最近どうも早苗の様子がおかしい。成績も落ちるし祐希にも八つ当たり。その原因は……父の則夫がお見合いしたからだった。則夫は妹から、「兄さんが再婚しないと早苗が心配して家を離れられない。男やもめの父親を背負わないといけないなんて不憫すぎる」と言われ、決定打は「早苗も賛成でその方が安心できるって」と言われたからだった。相手の満佐子は則夫のことを知っており、以前、夜のパトロールをしてる時にその女性の家に入ろうとした泥棒を捕まえたことを覚えていたのだ。お付き合いは順調と思われたが、ある日、早苗が志望校を県外にするかもしれないと言い出した。様子がおかしい早苗から事情を聞いた祐希は則夫たちに早苗の気持ちを伝える。

お見合い相手の満佐子さん楽しい♪すっぴんとはかなり違う顔の満佐子さんを見て「お化粧がたいへんお上手で」とお見合い席でありえない言葉を則夫から言われても「おかげさまで♪若い頃から塗るのはかなり」と答えるなんて面白い。夢見る少女のようでいて行動力があり、料理も上手で早苗にも優しい。なかなかのご縁だと思うけどやはりまだ高校生の早苗の気持ちが一番。だって父親との二人暮らしで十分幸せな時にあれよあれよとお見合いの話が舞い込んで、早苗の気持ちがついていかなかったんだね。満佐子さんとは出会う時期が早すぎただけ。このまま友達の関係を続けてもらって数年後にご縁があったらまたお付き合いして欲しいなー。則夫と早苗のどちらもが互いの邪魔にならないように気遣い合ってたことを知り、「なんだよ、相思相愛じゃん」と唇を尖らせた祐希も可愛かったデス♪


第四話
キヨが嘱託として働いているアミューズメントパークで、ゴミの不法投棄が増えていた。キヨが見回っている時に、未成年が地べたに座り込みお菓子やジュースを広げタバコを吸っているのを見つけ注意する。それ以降、大きな家庭ゴミが投棄されるようになった。キヨは注意した青年たちの意趣返しだと思い、シゲ、則夫たちと現場を見張ることにする。ある日、早苗の一言でゴミ投棄の現場を押さえることができた。

作中に出てくる新聞のコラム「変質する老人」がすごく印象的。「最近の若者は」と年配者がこぼしていたのは昔の話。今どきは反対に「最近の年寄りは」と若者がこぼしたくなるような年配者が増加している、近年の年配者の公衆道徳が乱れているとのこと。ゴミの不法投棄な話だけど、その「最近の年寄りは」に関連するような内容も盛り込まれており、電車の携帯マナーの話にはものすごく同意しちゃいました。それに対しキヨの奥さんである芳江の言葉にも納得。「向けられる厚意は素直に頂戴しておくのが愛される年寄りの秘訣」←これが何より一番!


第五話
商店街の寄り合いで活性化するための方法が話し合われた。娘の奈々と近所の神社に散歩に行き、子どもの頃に秋祭りで子供神輿を担いたことを思い出したシゲの息子、康生は「お祭りはどうでしょうね」とふと口からこぼれた。いろいろと意見はあったもののシゲの一言で開催にむけて頑張ることに。だが資金が足りずその資金集めに四苦八苦し、トラブルもあったりしたがなんとか無事神社で祭りを開催することが出来た。

今回はシゲの息子の康生が主役。キヨの息子の健児との関係も描かれており、康生目線での健児の性格もわかるようになってます。そしてそれぞれ子どもの時に自分の親のことをどう思っていたのか。特に康生は子供時分、居酒屋経営の父親が他の親は違い背広姿じゃないのが恥ずかしかった。でも今は孫の奈々の相手をしているシゲを見て、自分もかつて同じように慈しまれていたことを思い出し、幼い日の心ない自分が立ち上がってきて自分を責める。なんでしょう、親になった今、自分を育ててくれた親の気持ちがわかるんでしょうな。


第六話
予備校の帰り道、祐希は三人連れのおっさんに「こら!何をしてるんだ!」とけんか腰に責め立ててこられた。反発する祐希と言い合ってるとそこにキヨが通りかかり、大ごとにはならずに済んだ。キヨはその後に行った「酔いどれ鯨」でシゲと則夫にそのことを話す。ある日、その三人連れのおっさんが放火を発見し消防に通報したことで警察に表彰されたことが新聞に載っていた。それを見た芳江は三人のうち一人は高校の時の部活の先輩だという。ある日、また新聞に載るために頑張ってパトロールをしているとタバコを吸っている若者を発見。高飛車な態度で注意するが今回の若者は少し質が悪そうだった。そこに三匹のおっさんがやってき若者から三人連れのおっさんたちを助け出す。するとその中の一人、松木が一方的にまくし立ててきた。どうやら彼の初恋の相手がキヨの妻である芳江で、夜回りでキヨに勝とうとしたのだった。三月のある日、祐希と早苗は無事に志望の大学に合格。そしてキヨはまた新たに剣道の生徒の募集をすることにした。

偽三匹のおっさんが誕生したのは芳江が高校時代の先輩、松木と偶然会った時にすすめたから。しかも芳江は松木の初恋の相手で今でも芳江のことを可憐だと思ってるほど。さらに地域パトロールで成果を出すと称賛の嵐でやり甲斐のある趣味ときてるからなおよい。さらにさらに夜回りでキヨたちに勝てたらなおさらよい。こんなに年月経って自分自身にも妻がいるのに、初恋がここまで特別なものだなんて松木さん、ものすごく純情だったのね。思い入れが強すぎてちとコワいけど^^;今回はキヨと芳江さんの馴れ初めが知れて楽しかったです!


好きだよと言えずに初恋は、
転校が決まった潤子は、同じクラスの男の子とよく目が合うようになった。そして昼休みに誘われてついていくと桜の木の下で草の名前をし始めた。そして翌日、またその翌日も。ある日、休み時間にクラスの女子数人に囲まれて彼と一体何をしているのかと問われる。人気者の彼と仲良くしているのが気に入らないらしい。それから潤子は彼の誘いを断るようになった。担任が潤子のお別れ会をしてくれることになったが、潤子がクラスの女子から総スカンくらっているのが明るみになっただけだった。卒業式の日、彼に誘われて一緒に帰る途中、草や花の話を潤子にし出す。転校後、生きやすいようにキャラを変えて新しいクラスに馴染むようになった。そしてまた転校。またキャラを変えようとするが、今度は今までの自分よりもしっくりくるような気がしている。

最初、三匹のおっさんに登場する誰かのスピンオフ的な内容かと思ってたらどうやら違う模様。登場人物の名前を見てもピンとこないから一体誰の話なんだろう?と思い調べると……どうやら彼(話の最後の方にやっと苗字が登場)は、『植物図鑑』に登場する日下部樹くんの息子らしい。日下部樹くん本人の小学生時代だという説もあるようで……。今回の話では日下部くんと苗字だけで名前が書かれてないからな~。どっちだろ?でもよ?「うちのお母さんがお別れする人には花の名前を教えておきなさい。花は毎年、必ず咲くからって」って言ってるのでやはり息子説の方が有力なのかな?うーん、わかりません。で、潤子は初登場でいいのかな?


『三匹のおっさん ふたたび』は初めて読んだのに、なぜだか知ってる内容がいくつかあり「ん?」と思ってたらドラマ版で見た内容でした。毎回ではなく思い出した時に何回か見ただけだけど、第一話の小島=藤田朋子さん、第六話の松木=大和田伸也さんというのはしっかり覚えてます!ドラマの影響力はすごい。『三匹のおっさん』では挿絵をイメージしながら読んでいたけど、『三匹のおっさん ふたたび』ではキヨ一家、シゲ一家、則夫一家はドラマでの配役さんを想像しながら読んでましたもん。その中でもシゲ=泉谷しげるさんが一番キャラが合っててナイスキャスト!挿絵だと全然違う見た目だけど(笑)。

「世界から猫が消えたなら」 川村元気

『世界から猫が消えたなら』

世界から猫が消えたなら

 著者:川村元気
 出版社:マガジンハウス





<簡単なあらすじ>
僕は生きるために、消すことを決めた。今日もし突然、チョコレートが消えたなら 電話が消えたなら 映画が消えたなら 時計が消えたなら 猫が消えたら そして 僕が消えたなら。世界はどう変化し、人は何を得て、何を失うのか。30歳郵便配達員。余命あとわずか。陽気な悪魔が僕の周りにあるものと引き換えに1日の命を与える。僕と猫と陽気な悪魔の摩訶不思議な7日間がはじまった―――
(マガジンハウスHPより引用)

<感想>
郵便配達の仕事をしている30歳の平凡な男性。風邪をこぜらし病院に行くと、風邪ではなく余命は長くて半年、1週間後すら怪しい状態と医者に告げられた。病院から帰った夜、部屋にやたらと明るい"もう1人の自分"がいた。本人いわく「悪魔」だそうで、いつ死ぬか知らせにきた。だが生きられる方法が一つあるという。この世界からひとつだけ何かを消す。その代わり1日寿命が延びると。単純計算すると、265個の何かを消すと1年寿命が延びる。何を消すかは悪魔が決める。ただオプションとして最後に1回だけ消すものを使ってもよい。

とこんな感じのストーリー。
毎回、悪魔から何を消すが告げられる主人公。平凡に暮らしてきたが、死を身近に感じるようになり、あまり深く考えてなかったことを今一度考える。母親のこと、父親のこと、元カノのこと、中学からの親友。大人になって得たものと失ったもの。もう二度と取り戻せない感動や感情。それを思うと無性に悲しくなり涙する主人公。そして世界から猫がもし消えたら……主人公は決断をする。何かを得るためには何かを失なわければならない。死にたくない。死ぬのは怖い。でも何かを奪って生きていくのはもっと辛いと。全ての人間にとって寿命は未知。

決定的だったのは猫の存在。悪魔が気を利かせて猫に魔法をかけ、ある日突然猫が喋るように。時代劇風の語り口だけど、猫目線の疑問が主人公の心に響いたことの一つになってるような気がする。どうして物に名前をつけるの?区別する必要があるの?猫には時間の割り当ても物に対しての名前の区別もなく、自然現象を中心に行動しているだけ。そもそも死の概念があるのは人間だけ。あとはやはり両親のことを考えることにより、大切なもの、この世界に生きている素晴らしさに気付いたこと。それがわかったことで主人公は最後の日を安息日と表現したんだろうか?

個人的に印象的だったのは、悪魔の姿の説明。悪魔という存在は、人間の各々の心の中にあるだけ。その心の中の悪魔という存在にいろいろな像を勝手に描いているだけ。生きていく中で、無数にある小さな後悔、あーしたかった、こうしたかったという後悔。実際しなかった姿が自分の姿で、もしいろいろとしたかったことをやり遂げてる理想の姿が悪魔的な姿だと。なりたいけど、なれない自分。自分に一番近くて遠い存在だと。文中に出てくる悪魔によると、人間というのは、選んだ人生から選ばなかった方の人生を眺めて、羨ましがったり後悔したりする生き物だと。最初はチャラい悪魔だなーと思っていたけど、最後の会話は、なるほど!と思ったり。

最後は主人公が大事なことに気付いたから、悪魔からのご褒美としてどんでん返しがあったりして?!と思ったりもしたんですが、やはりどんでん返しはないのね…。全体的にテンポがよく読みやすいですが、やはり死という重いテーマを扱ってるので私は構えて読んじゃいました。構えすぎちゃうと心に残るものがあまりないかも^^;読後にどんより感がなかったのは救い。

内容が1週間という設定なので、これはもしかしてテレビドラマを想定しているんでしょうか?小説という形で読むより、ドラマ化、あるいは映画化されたらもっともっと感動し面白くなりそうな、そんな1冊でした^^

「何者」 朝井リョウ

『何者』

何者

 著者:朝井リョウ
 出版社:新潮社





<簡単なあらすじ>
「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」
就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。
(新潮社HPより引用)

<感想>
アパートをルームシェアしている拓人と光太郎、上の階に住んでいる理香と彼氏の隆良、光太郎の元彼女の瑞月、主に彼ら大学生5人の就活を描いた作品。最初は、タイプの違う5人の就活をしながらの日常生活の模様が続く。淡々とした内容ではあるけど、ちょっとした些細な事や、何気ない会話の中に、それぞれの人物像が浮かび上がっていく。

友達同士集まってる最中、ツイッターでその様子をツイートしたり、同じく仲間同士話している最中にそのツイートをこっそり読んだり。話をしている時に携帯をずっと片手にもって話していても、周囲は気にならないのかな?なんて思う時点ですごいジェネレーションギャップを感じる……^^;

・隆良の自分は就活に向いてない、今のこの時代で団体に所属するメリットって何?という持論。そんな隆良に…。
・冷静に周囲を分析している拓人、時々嫌味というか、ヤな感じに聞こえたりする台詞もある。そんな拓人に…。

この本の感想は難しい。上の2つについていろいろ書きたいけど何を書いても傍観者としての意見になっちゃう。でもあえて言うなら、拓人に対しての批判は、私にはただ拓人を傷付けることを口に出し、自身の自己満足というかストレス発散してるようにしか見えなかった。言ってはいけない一線を越えてしまった。これほどまで言われて拓人が変われるとは思えないんだけど、ラストを見ると何か変わった?!でもね、最後の面接での受け応えは現実的にどうなの??面接官は拓人の事情なんて知らないし。最後は自分の感情に浸ってるというかなんちゅーか…。あ~、やっぱり私も観察者になってしまった…。観察者といえばサワ先輩が一番冷静な観察者?

本作はツイッターが下地になってて、ちょっとだけラインやスカイプやFBも出てくる。直木賞作品だから年配の方も読むはず。ツイッターなどのしくみがわからなくても大丈夫なのかな?でも就活してる学生の感情は、普段の生活や仕事でもある葛藤、嫉妬、羨望とリンクする部分があるからそこに共感を得ることが出来るということかしら?なにはともあれ本書の感想はやっぱり難しい…。ってかね、本作を読むと人間不信に陥りそう…

P.S 光太郎が作る特製絶品キーマカレーが美味しいそう♪パスタに使うインスタントのミートソースって、カレー粉が入ってないだけでキーマカレーの材料と一緒って初めて知った!なんでレトルトのミートソースに好みの量のカレーパウダーとひき肉と豆と野菜を入れれば簡単にキーマカレーが出来るらしい。さらにチーズとかいれてもさらに美味しくなるとか。これはマジで美味しそう。

もう一つ、プリンはフレンチトーストを作るための材料と全く一緒なので、食パンの両面にぐちゃくちゃにしたプリンを塗ってフライパンで焼けばカラメル風味のフレンチトーストが出来るらしい!やーん、これも美味しそう♪実践してみたいけど、私がすると敗しそうだから実際作ってみた人の感想が聞きたいなぁ。なんなら出来上がり写真付きの光太郎シェフの料理本出して欲しい^^

「往復書簡」 湊かなえ

『往復書簡』

往復書簡 (幻冬<br /><br />舎文庫)

 著者:湊かなえ
 出版社:幻冬舎文庫





・『十年後の卒業文集』
・『二十年後の宿題』
・『十五年後の補習』
・『一年後の連絡網』
・『一年後の連絡網』
以上からなる短編集

『十年後の卒業文集』
高校を卒業して10年後、放送部だった2人の結婚式に仲間だった同級生が集まる。だがそこには新郎の浩一と当時付き合っていたちーちゃん(千秋)の姿はなかった。しかも噂では現在行方不明だという。海外で生活しており久しぶりに皆と再会した悦ちゃん(悦子)は、一体何があったのか真相を知るため同級生のアズ(あずみ)と新婦の静ちゃん(静香)に手紙を書くことにした。

こんなことってあるんだろうか。いくら10年ぶりといっても…ねぇ?それはさておき、書簡の中で高校時代のことを振り返る悦ちゃんとアズ。詳細なことまでよく覚えてるなー。私なんて10年前のことなんて何一つ覚えてないよ~。そこまで昔のこと、ちーちゃんのことを掘り下げる必要があったのかな。結婚した仲間を素直に祝福してあげるだけじゃダメだったの?ここまでして真相をする必要があったの?と思ってしまう。メールだと、すぐ書き直せたり削除できるので、言葉を選んで書くことができる。だけど手紙は、ふと話が逸れてしまった時、別に書かなくていいことまで書いてしまう。なので手紙の方が、書き手の正直な気持ちが見え隠れしてるような気がする。それを上手に使って女性の心理(思い込みや想像)を描いているのが湊かなえさんならではと思った作品でした。もし数年後に同窓会を開くことになり、正真正銘全員出席し顔を合わせた時のことを考えると…これが一番怖いかも。

『二十年後の宿題』
教師をしている大場は、卒業してからずっと年賀状のやりとりがある小学校時代の恩師である竹沢先生から、ある依頼の手紙が届く。退職を機に、ある6人の生徒たちの今の様子が気なるが、自分は入院していて調べることが出来ない。なので代わりにこの6人の今の様子、また、みな幸せな生活を送っているか会って確認して欲しいと。大場は早速1人ずつ会いに行くが、同時に当時起こったある事故に関わりがあることも知り、それぞれから当時の記憶、また現在思うことを聞き、その都度恩師に話したことを手紙で報告。だが6人目にはなかなか会えずにいたが……。

当時小学校4年生だった6人。担任だった竹沢先生夫婦と6人が図工に使う落ち葉を拾いに行った時に起こった不幸な事故が基盤に。この事故に遭遇した6人がその後どのように過ごし、現在はどのような人生を送っているのか。次第に明らかになっていく生徒たちのそれぞれの立場や視点からの事故の詳細、そして今はどう思っているのか。なんて言ったらいいんだろう、最初は軽く、徐々に重くって感じ?入院してても先生自身が手紙を書けばいいはず、あるいは気になってるなら退職前でもよかったはず…という疑問がラストで払拭。生徒想いの先生ではあるけれど、この方法で本当に良かったのかな。生徒の中には思い出したくない人もいるだろう。先生に今の気持ちを伝えられて良かったと思う人もいるだろう。でも方法はどうであれ、先生自身も6人の現在、そして当時のことをどう思っているのか気になってたのは確か。結果オーライで良かった~と思ってましたが、よくみると最後の手紙には差出人の名前がない、ないよ~!!どういうこと?最後から2つ目の手紙を読む限りハッピーエンドだと思ってたんですが違うの?!って思っていたら最後に収録されている『一年後の連絡網』になにやらその後が少し描かれてた!でも彼女の相手が誰であれ、ある意味ハッピーエンドに変わりはないか。最後に、蕗味噌入り焼きおにぎり、エビと白身魚のすり身入り卵焼きが食べたい~。

P.S 映画『北のカナリアたち』の原案が読みたかったのが本書を借りた理由。といいつつ映画は観てませんが^^;映画のHPのあらすじや予告編を観る限り内容がちょっと違う模様??どうなんだろう。気になるのでいつかDVD借りて観るぞー!

『十五年後の補習』『一年後の連絡網』
国際ボランティア隊としてP国へ2年間赴任することが決まった純一。学生時代から付き合っている万里子は、純一が30歳を目前に国際ボランティアに参加しようと決断したのは、15年前の"出来事"が影響しているのではないかと思い手紙を書く。徐々に明らかになっていく当時の"出来事"。果たして真相とは…

遠く離れた国へ国際ボランティア隊として2年間行ってしまった彼氏と、日本にいる彼女とのラブラブな往復書簡だと思っていたら、15年前の"出来事"が徐々に明かされていき、決して思い出してはいけない何かが見えてき、どういう結末を迎えるのかハラハラしながら読みました。ラストの手紙のその後はどうなったの?もしかして警察が来たの??なんて思っていたら『一年後の連絡網』を読んで、私の想像が全く見当違いだったことは判明^^;そっかー、そういうことか。2年間会えず、手紙を受け取るのに20日もかかる遠く離れた国に相手がいるからこそ、手紙という手段が一番活かされていた作品でした。余談:5×0=0 どんな数字でも0をかけると応えは0。この例えが内容とどうリンクしているのかイマイチ理解出来てないデス^^;

『一年後の連絡網』は、国際ボランティアとしてT国とP国に赴任している隊員同士の書簡。『二十年後の宿題』、『十五年後の補習』の後日談らしきものが。通信手段が手紙だけという国へ国際ボランティアとしてる者にとって、手紙は大きな活動源になるという。これはすごく説得力あるかも。
巻末の「文庫化によせて」では、映画『北のカナリアたち』主演の吉永小百合さんへのインタビューが記載。吉永さんがおっしゃるように、この本に収録されてるのは「あなたならどうする?」「あなたなら、過去を乗り越えて、どういう生き方をしますか?」と問いかけがされているような気がします。

手紙は後々まで残せるもの。もちろんメールだって残せるしプリントアウトして手元に置くことも出来る。でもメールと違い手紙は手書きで、あとで読んだ時に当時の想いが垣間見れて味わいがあるような気がする。特に本作のように、昔のある出来事について、現在の時間から告白する形だと、相手からの返信を待ってる時間がとてつもなく待ち遠しい。手紙だから聞いたり言えることもある。どの作品も現実的には不自然すぎる気もするけど、それでも面白く読めたのはやっぱり湊かなえさんだからかなと思った1冊でした^^

「ツナグ」 辻村深月

『ツナグ』

ツナグ (新潮文庫)

 著者:辻村深月
 出版社:新潮社 新潮文庫





<簡単なあらすじと感想>
一生にたった一度だけ、死者との再会を叶えてくれる案内人。生きている人が会いたいと望む、すでに死んでしまった人との再会を仲介する。それが使者(ツナグ)。依頼人が死者に会えるのは、生涯に一度、一人だけ。死者も生者に会えるのは一度だけ。なので一度死者に会ってしまうと、再び会いたい死者がいても会うことが出来ない。一方、死者は会いたいと願う生者に対して断ることは出来るものの、一度会ってしまうと他から会いたいと依頼がきても会うことができない。世間からは都市伝説のように思われているが、祖母からを受け継いだ見習いの歩美が「使者(ツナグ)」として依頼者と会う。



『アイドルの心得』
家族から疎まれ会社でも居場所がない平瀬愛美は、三ヶ月前に急性心不全で亡くなった元キャバ嬢という経歴を売りにしていたマルチタレントの水城サヲリに会うため、使者(ツナグ)に依頼をする。ツナグから、死者にとっても生者に会える機会があるのは一度きり、なので断られる場合もあると聞かされる。家族でも友達でもない、ただのファンである自分と会ってくれるのかと思っていたところ、ツナグから連絡が入る。

水城サヲリは有名人なので会いたいという依頼が多く、いちファンである自分なんかとはきっと会ってくれれないだろうと諦めていたところ、まさかのOK。大事な1回を自分のために使って申し訳ないと思う愛美に対し、水城サヲリの返した言葉は的を得ていて納得。さらに彼女は愛美に伝えたかったことがあった。映画を鑑賞し、原作が読みたくなって本作品を借りてきたのですが、映画では『アイドルの心得』はバッサリ切られてました^^;ツナグの役割、どのような経緯でツナグを知り連絡を取ることができるか、また愛美目線でツナグの見た目が詳しく書かれており、結果としても前向きな内容なので、一発目ならではという感じでした^^

『長男の心得』
長男で店を継いでいる畠田は、山を売るために必要な権利書のありかが知りたいので二年前に亡くなった母親に会いたいとツナグに依頼。最後まで死者に会えるとは信じておらず、ずっとインチキか詐欺だと疑っていたが、ツナグへの連絡先は、生前、母親から教えてもらったものだった。実は母親も生前一度ツナグに依頼したことがあるという。そして母親と再会――

長男として家業を継いだ畠田。家業を持つ古い家のせいか、長男は家を継ぐもの、一族を守る者ととして言い聞かされて育てられる。弟はのびのびと育てられる。といっても畠田は物心つく前からそういうものだと育ったので不満はない。が、その責任感からか超頑固で不器用で憎まれ口ばかり。家族、親戚に頭ごなしに怒鳴りつけ褒めることはまずない。でも母親は家族のことは何でもお見通し。もちろん長男である畠田のことも…。映画を先に観たので母親が登場した時にすでに目頭が熱くなってしまった(TT)。映画では畠田の息子と奥さんの件が少なかったけど、原作では母親の性格を受け継いでるらしく頑固親父にこの妻と子ありという感じで良かったデス。ラストも良かった(涙)。畠田=遠藤憲一さん、母親=八千草薫さんはハマリ役!

『親友の心得』
演劇部に所属する自分が一番じゃないと気がすまなくプライドが高い嵐と、嵐のことを立て素直に褒める御園。2人は正反対な性格だったが趣味が合うこともあり仲が良かった。だが演劇部で公演する配役を決める時、いつも裏方だった御園が立候補し主役の座を奪われてしまう。御園さえいなければと思った嵐はある行動に出る。その結果…。嵐はツナグに連絡を取り御園に会えるよう依頼。自分のしたことを他の人に喋られる前に自分が先に御園に会っておこうと思ったのだった。そこに来たのは御園と嵐が気になってる同級生の男の子だった。

映画の感想でも書きましたが、他の依頼者と違い、彼女だけは死者に会いたいと願う目的が違う。自分が楽になりたいため、自分が犯した罪を他の人に喋って欲しくないため。で、実際に会った御園は頼みがあって会うことを承諾したという。この理由は本心?亡くなった御園と再会したことで嵐は一生忘れることができない"後悔"を背負ってしまったように見えるけど、これも御園が望んだこと?ツナグに伝言を託した理由は?嵐がそれを心配していたから安心させるため?それとも嵐に対しなにか意図があったの?「嵐、どうして」と言った御園の最期の言葉。この続きは?映画ではさほど疑問に思わなかったことが、原作を読んで疑問がどんどん膨らんできました…。一番インパクトあって映画でも一番涙した作品でしたが、本当に会ってよかったのか、会わない方がよかったんじゃないか、御園の本心はどうだったのか…いろいろと考えてしまう作品でした。

『待ち人の心得』
土谷は9年前に日向キラリと出会い、その後付き合うことになり結婚を約束した途端に彼女は失踪してしまった。そんな時、土谷は病院の中庭のベンチで知り合った老女に「会いたい人がいるんじゃないか」と聞かれ、ある電話番号を渡される。ツナグへの番号だった。自分の意思で離れていったのか、それとも何かあって連絡できない状態になったのか――気になった土谷はツナグへ連絡することに。だがツナグを通し会えるということは既にキラリは亡くなってることになる。果たして土谷はキラリと会うことが出来るのか。

これは映画よりも小説の方がぐっときた。映像では出会いから結婚まで少しミーハー的な感じがしてたんですが、小説ではそこまでの過程が映画より詳細に書かれており、なんとなくわかったような気がする。あくまでも気だけだけど^^;そしてツナグ=歩美の、ツナグとしての成長度というか人間味が垣間見れて良かった。

『使者の心得』
仕事の依頼ではなく、歩美が祖母から仕事を受け継ぐ経緯、両親など歩美側が描かれてます。使者(ツナグ)になった者は、自分が会いたいと望む死者に自分で交渉することができないと聞かされた歩美。なのでもし会いたい死者がいるなら、仕事を引き継ぐ前に自分が会わせると言う祖母。そして誰に会いたいか考える歩美。一方、今まで受けた依頼を歩美目線でも書かれており、その後が少しわかるように。

歩美は誰に会いたいか――。歩美が誰かを指名すると死者との引導をするツナグもその人物に会うことができる。祖母が会いたいと思う死者に、歩美は会わせてあげることができる。そんなことを考え、今まで受けた依頼を考え、結論を出す歩美。両親の死の真相は切ない。そしてダッフルコート!重要な役割をしてたのね。
全体を読んで感じたこと。最初は家族でも友達でも恋人でもない2人。次は親子。次は友達。次は恋人。そして次は歩美自身、家族について、ツナグという役割について。死者と会うことで救われる者もいればそうでない者もいる。この構成はうまいなーと。自分なら誰に会いたいだろうかと思わず考えてしまう。映画も小説も良い作品でした。映画の感想はこちら

「ケルベロスの肖像」 海堂尊

『ケルベロスの肖像』  

ケルベロスの肖像

 著者:海堂尊
 出版社:宝島社





<簡単なあらすじ>
東城大学医学部付属病院に、「八の月、東城大とケルベロスの塔を破壊する」という脅迫状が届く。田口は姫宮からの依頼で、この一件を解明するため碧翠院桜宮病院の炎上事件の重大な疑問を解き真相を明らかにしてほしいと頼まれる。病院長からはAiセンター創設委員会の再起動、Aiセンターのこけら落としを記念して開催されるシンポジウム実行委員会の委員長を引き受けて欲しいと頼まれる。そん中、日本でノーベル賞に現在一番近いと言われているマサチューセッツ医科大学上席教授の東堂文昭がやってくる。そして世界に3台しかない9テスラのマンモスMRIリヴァイアサンまでもを持ってくる。やがてAiセンター設立の日を迎えるが……。バチスタシリーズ6作目で最終作。

<感想>
いつものように高階病院長からお願いされる田口先生。依頼内容を聞かされると承諾してしまう経験から、今回は話を聞く前に断ることに。が、高階病院長の巧みなテクニック話術でいつのまにか田口先生が懇願して依頼を受ける形になっちゃってる(笑)
田口先生が語る姫宮は長い髪に長い手足。スタイル抜群、まるでスケートのフィギュア選手かバレリーナみたいだと。第一印象を集約すると「でかい女性」とのこと。今までもでかい女性とは言われてきてるけど、スケートのフィギュア選手かバレリーナみたいという表現は初めてでは?私の中での印象はてっきりボンキューボンって感じのボリュームある体系だと思ってた^^;

その姫宮から、二年前に起こった碧翠院桜宮病院の一家四人が焼死した事件について。五人家族だったのに(一番上の葵はエンバーミングされて遺体安置)遺体は4体しかなかった。一卵性双生児の小百合かすみれのどちらかが生きている。だがそれは問題ではなく、生き残ったどちらかを確定しておかなければならない。なぜなら桜宮一族は東城大学に恨みを抱いていて、東洋大破壊工作をしかけてくるはず。姉妹は攻撃手法が違うので相手を特定し、そのタイプに合わせて防御策を練らなければならない。そこで田口先生に、本件について東城大学に残存するデータを徹底的に洗い直し、どちらが生き残っているのか確定して欲しいとのこと。それが脅迫状と繋がるのね。

今回、東城大学医学部付属病院では医学知識おたくで薬のことをうんちく言ってくる情報モンスターを取り入れつつ、強烈キャラの東堂先生と、白鳥に新たに出来た部下である砂井戸が初登場。(東堂先生はどこかで名前だけ出てきたことあったっけな?)そうかと思えばバチスタシリーズ最終作ということでいつものメンバがーや懐かしい面々が集結。Ai運営連絡会議のメンバーをとっても、島津先生、笹井教授、陣内教授、彦根、桧山シオン、監察医の南雲等々。西園寺さやかや4Sエージェンシーの城崎さんも登場。名前だけの登場でも天城先生(これは驚き!)、渡海先生、速水先生、瑞人くん、島津お気に入りの技術者だった友野(『アリアドネの弾丸』で登場)、そして玉村警部補。

他にもいたと思うんだけど思い出せない^^;バチスタシリーズといっても全体的に田口&白鳥がメインって感じじゃない。過去の出来事が重要なカギになってるので、「螺鈿迷宮」と「ブラックペアン1988」は読んでおかないとわかりづらい。その他の登場人物にしても背景や人物像を知るには、過去の作品を読んでいるとよりわかりやすい。
あと、最後にコールドスリープ法案についての記載があるので、時系列は『モルフェウスの領域』の少し前と思わせる。彦根はおそらく『ナニワモンスター』に続きそうな予感。田口先生に何かあったら遠慮せずに言え、愚痴くらいなら聞いてやれるかといわれ泣き笑いのような表情をした彦根、彼はのっぴきならない状態にいるみたいだけど、一体何が起こっているんだろう?もうね、毎度のことだけど「この人物誰だっけ?」「全作品を通して時系列的にどのあたりの作品?」と悩むのは当たり前の海堂作品。今作品は海堂作品を網羅してないと誰が誰なのかわからないかも…。

Aiについてもちろんちゃんとあります。今回は県警に持ち込まれた案件。Aiが死亡解剖で見落とした虐待所見を発見したというもの。解剖をしても見逃す事案はある、そんな時、別系統からAiでチェックすれば見逃しが減る。それなのに法医学者はこのようなミスを露見してしまうことを怖れこのシステムに同意しない。要は見逃されてしまう虐待事件が繰り返されていくと。

結局、桜宮病院関連はきっちり完結しておらずなんかスッキリしない。シオンさんの変貌にも驚き。予兆あったっけ?田口先生の口調もどこか以前と違うような気がする。気のせい?歳を重ね、キャラの濃い人物と接し、あの病院長の下で働いていたら性格も変わるか(笑)。しかもあの田口先生がラストには…。まぁとりあえず今回は田口先生の意外な趣味を知ることができて良かった(^m^)

最終作ということだけど、違う本で桜宮病院関連についてはまた記述がありそう。ってか謎のままで終わった例のあの方、どこかで登場しそう…。バチスタシリーズとシリーズ名が付いてるけど、海堂作品(小説)は何かしら小さいものでも全て繋がってるような気がする。次は『ナニワモンスター』の続編だったらいいなー。こちらも早く読まないと前作との繋がりを忘れそう~。もう忘れてるけど^^;個人的には『ブレイズメス1990』のその後の天城先生が知りたいっす。

「ヒア・カムズ・ザ・サン」 有川浩

『ヒア・カムズ・ザ・サン』

ヒア・カムズ・ザ・サン

 著者:有川浩
 出版社:新潮社





<簡単なあらすじ>
真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。
ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。
父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた…。

上記のわずか7行のあらすじから誕生した二つの小説。大切な人への想いが、時間と距離を超え、人と人とを繋げていく。有川浩meets演劇集団キャラメルボックス。小説×演劇の全く新しいクロスオーバーから生まれた物語の光。
(本書帯より引用)

<感想>
『ヒア・カムズ・ザ・サン』と『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』の2編が収録されおり、前者はある役者の「この7行のあらすじから、有川浩と成井豊が生み出すそれぞれの物語を読んでみたい」という呟きがきっかけで生まれたそう。後者は上演された舞台に着想を得て執筆されたものだそう。2つは登場人物名や大枠は共有しているけど、話そのものは全く別物となってます。

出版社の編集部に勤務する古川真也は、幼いころから何かに触れるとそこに残された人間の思いや記憶が見えたり聞こえるという不思議な能力を持つ男性。その残された思いが強ければ強いほどはっきりと感じ取ってしまうため、真也は切れるような痛みが走ったり眩暈に襲われることも。その能力を生かしつつ編集部で働く真也は、同僚のカオルの父親をカオルと空港に迎えに行くが…。といった内容。

『ヒア・カムズ・ザ・サン』も『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』も登場人物や働いている場所などの背景は同じなのですが、話は全く別物。『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』を読み始めて、あれ?2人はそういうことに?ん?時期的に『ヒア・カムズ・ザ・サン』の中では既にそーなってたの?!なんて疑問に思っていたら、空港に迎えに行く時に、あっ、これは登場人物そのままで内容が全く違うパターンなんだと。読み終えてから、巻頭の説明にちゃんとパラレルワールドって書いてあるのに気付いた。タイトルにもParallelって入ってるっちゅーねん(笑)。『ヒア・カムズ・ザ・サン』を読んだ後にすぐ『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』を読んだので(1冊の本だから当たり前か^^;)、最初は設定にかなり困惑したかも。

前者はちょっとミステリーのような感じ?後者は夢見る夢子ちゃんの男版。たった7行のあらすじからこんなストーリーを考えるなんてすごい。父親はカオルを愛しており、カオルは長年会っていなかった父親に対し複雑な思いを持っている。そんなカオルの家族のために「余分な」気づき――能力を使おうとしてるのは一緒。
今回はどちらかというと胸が痛い系かも。『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』は途中から、これはもしかして目頭が熱くなる展開か?!と覚悟を決めて読んだのですが…やはり目頭が熱くなってしまった…。といいつつ個人的に好きなのは『ヒア・カムズ・ザ・サン』だったりするんだけど^^;←読後感的に。

幼いころの真也とおばあちゃんのやり取りや、カオルが子供の時、父親が見てる前でだけ思いっきりブランコを漕ぐことができるというやり取りはほっこり系で目頭が熱くなるパターンだけど、『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』の中で、上司の岩沼が言ったセリフ「親父に腹を立てるのは、自分の理想の親父であってくれないから。尊敬できる真っ当でカッコいい親父でいてくれないから。親は立派な人であるべきというのは子供の幻想だ」というセリフは重たくてぐっとくる。カオルのどうして自分だけが大人にならなきゃならないのかという呟きも。こういうどこか身近な感情に胸がつまる…。そして父親の言動が読んでいて辛くなる。

『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』は、後者は上演された舞台に着想を得て執筆されたものということなので、もともと違う方が書いた脚本があるってことだよね?それが成井豊さん?劇だけでなく映画にも出来そうな雰囲気がありました^^

このように登場人物名や大枠は共有しているけど、話そのものは全く別物の2作品を収録するのは面白いと思いますが、『ヒア・カムズ・ザ・サン』の内容が頭の中にあったので、『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』の内容に慣れるまでちと困惑しました~。

「舟を編む」 三浦しをん

『舟を編む』

舟を編む

 著者:三浦しをん
 出版社:光文社






<簡単なあらすじ>
玄武書房辞書編集部に勤める荒木は、定年を迎えるにあたり後継となる社員を探していた。そして見つけたのが営業部にいる馬締光也。営業部ではパッとしない馬締だったが、律儀で言葉に対する鋭い感覚を持ち、人とは違うところに美と喜びを見いだす彼は辞書づくりに必要な人材となる。退職しお目付役となった荒木、辞書づくりに人生を捧げている松本先生、一見チャラいが対外交渉では力を発揮する西岡、無愛想だが実務能力がきわめて高い佐々木、異動してきた岸辺らと、辞書『大渡海』を作り上げていく。そんな中、馬締は気になる女性に恋文を書くが…。辞書作りの方はそう簡単にはいかず、長い年月を費やすことになる。果たして『大渡海』は完成するのか――。2012年本屋大賞第1位。

<感想>
図書館で予約してから半年、やっと手元にやってきました!三浦しをんさんのお名前は知ってましたが、著書を読むのはこれが初めて。どんな内容の本なのか予備知識もなく読み始め、荒木さんという人が主役なんだ~と思っていたら違った^^;馬締と書いて"まじめ"さんが一応中心人物。流れとしては、荒木さん、馬締、西岡、岸辺さん、荒木先生と焦点を当ててます。

辞書『大渡海』を作り上げるのがベースになっており、それに携わっている人たちがどのように仕事をし、どのように日本語を考えているのか。"辞書は、言葉の海を渡る舟、海を渡るふさわしい舟を編む"と。辞書作りに対する関係者の長年の夢、熱い気持ちはすごい。聞き覚えのない言葉や、疑問に思った言葉は即座にメモ。普段の生活から辞書作りに対する姿勢もすごい。

今はインターネットがあり、わからない言葉はすぐネットで調べてしまいますが、学生の頃までは辞書に大変お世話になりました。小学生の頃は国語辞典、漢和辞典は必ず必要でしたもん。今の時代はどうかわからないですが、昔は一家に一冊広辞苑があったし。これだけお世話になっていながら、どうやって作られていくのかを初めて知り驚きました。実際出版社が行う辞書作りにどこまで忠実なのかはわかりませんが^^;

要領が悪く、真面目なだけの馬締のエピソードでは運命の女性が登場。なんだかよくわからない出会いから順調に進み、あれよあれよといううちに…という感じ。個人的に気になるのは西岡。チャラい男性だけど、実は勘が鋭く、彼は彼なりに気をつかい自分の出来ることを頑張っている。どの部署にいっても持ち前のキャラで自分の位置をちゃんと見つけれそうな感じ。馬締に対し苛立つこともあるものの、辞書作りの天才に「西岡さんは辞書編集部に絶対必要な人」と言われ泣きそうになる西岡に対し、私も目頭が熱くなっちゃった。。十数年後、輪をかけたようにチャラい中年になってるのには笑ったけど(笑)。

岸辺さんのエピソードでは製紙会社が登場。辞書に使う紙について書かれており、とても興味深く読めました^^辞書はページ数が多いのでいかに薄く、軽く、裏写りしないかを重視。それに加えぬめり感もいるんだとか。普段、何気に辞書を使っていたけど、利用する人にとって快適にめくれるようにちゃんと工夫されてるんだなぁ。

辞書編集部、製紙会社、板前さんとそれぞれの仕事から、何かを作り出す、生み出すという過程はそれぞれ生半端なものじゃない。やりがいを感じ達成した時の感動は計り知れないもの。そういう仕事に対する想いも伝わってくるような作品でもあるような気がします。

が、ラストに向けてなにやら嫌な予感が…。この状況はもしかして?と思っていたら嫌な予感は当たってしまった…。笑顔で本書を読み終えようと思ったのに感慨深い気持ちが残った感じです。そしてもう一つ、本書の感想を書きながら思ったこと。もし私のブログを荒木さんが読んだら「君の日本語はめちゃくちゃだ!単語の使い方も間違っとる!」ってお叱りを受けそう^^;


ところで本作品、映画化が決定し来春公開。馬締に松田龍平さん、香具矢さんに宮崎あおいさん。あまりイメージ出来なかったけど、画像を見て馬締っぽい雰囲気がめちゃ出てます^^板前の香具矢さんの方は、「自分、不器用ですから」と今にも言いそうなカッコいい美人さんというイメージがあったので、まさか宮崎あおいさんだとは!でもこの画像を見るといい感じ^^こりゃ楽しみかも~。

舟を編む

「殺し屋 最後の仕事」 ローレンス・ブロック 

『殺し屋 最後の仕事』  Hit and Run  

殺し屋 最後の仕事 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

 著者:ローレンス・ブロック(Lawrence Block)
 訳者:田口俊樹
 出版社:二見書房 二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション




<簡単なあらすじ>
アルという人物から仕事の依頼を受けアイオワ州に来て待機していたケラー。切手ディーラーの店にいた時、テレビの臨時ニュースでアイオワ州遊説中のオハイオ州知事が暗殺されたと知る。ケラーは自分の仕事を早く片付けたかったがアルの代理人からはまだ依頼がこない。そしてケラーの悪い予感は当たった。知事暗殺犯として指名手配され、ドットとも連絡が取れなくなった。逃亡生活を余儀なくされたケラー、アルの手から完全に窮地を脱するには自分を罠にはめた男たちに復讐するしかなかった。

<感想>
『殺し屋』『殺しのリスト』『殺しのパレード』に続く殺し屋ケラーシリーズ4作目であり、『殺しのパレード』のあとがきには『殺し屋 最後の仕事』が最終作だとか。著者とのQ&Aで、ローレンス・ブロックはちょっと曖昧な返事。うーん、どうなんでしょ?本当に終わりなら好きなシリーズだっただけに悲しいなぁ。

今回は、『殺しのパレード』の「ケラーのて適応能力」と「ケラーの遺産」に登場したアルからの再度の依頼。前も罠なんじゃないかと用心に用心を重ねたくさんの予防策を講じたのに、今回はまんまと罠にはまってしまうケラー。

表向きは殺しの依頼。だが実際は濡れ衣を着せるために殺し屋を雇うという…。もし警察に捕まったとしても殺し屋は何も言えない。殺人の依頼を受けてこの街にやってきただなんて言えないし、依頼者側の言うとおりの行動をしているからアリバイさえもない。なるほど~。殺し屋のこういう雇い方もあるのか!殺し屋として誰も殺してないのに、知らない誰かの殺人の罪を着せられちゃうなんて災難もいいとこ…。

罠にはめられたことから逃亡生活が始まるのですが、さほど物語が進展するわけでもなく、エキサイティングな事が起こるわけでもなく。ただただ逃亡中のケラーの日常を描いているだけだったりするのですが、なぜか読んでいて面白い。一歩間違えたら退屈になりそうな内容なのに、ローレンス・ブロックだから面白く読めてしまうという。罠にはまって大災難なのに淡々と、殺しをする時も淡々と、まさかドットが?!という展開も淡々と、ニューオーリンズで新たな生活も淡々としてるのに。なのになぜなんだろう?ローレンス・ブロックの手腕に尽きるなこりゃ。

ケラーといい、ドットといい、ジュリアといい会話がいい!めちゃ面白いことを言ってるわけではなく、洒落がきいててどこか知的でウィットに富んでるからかな。それと前作でも書いたかもしれませんが、ケラーの自問自答の言い回しが特に好き。

ケラーは今までニューヨークでの仕事は断ることをルールにしており、ニューヨークは彼の家であり仕事を終えて帰る場所(といっても何度か仕事してますが)。ケラーにとっては天国のように神聖で安全な場所。だけど今回のことでニューヨークは危険きわまりない場所になってしまう。それでも切手コレクションのために戻ったケラー。彼にとってドットと切手コレクションは特別なもの。その両方を失ったのに現実として受け止めているケラーはやっぱ一味違う。

過去のシリーズでドットと同居していたホワイト・ブレーンズの男(親爺さん)。あまり多く語られてなかったのですが、犯罪組織にいたことや、本名やあだ名(?)が今回明らかに。

このシリーズの魅力はやっぱりケラーのキャラ、そしてそのローレンス・ブロックによるケラーの描き方のような気がします。結構、昔の仕事内容を振り返ったりしてるので、過去のシリーズを読んでいた方がより楽しめそう。私も実は本作を読んだあと、過去のシリーズが気になり読み直しました。

解説を伊坂幸太郎さんが書いてるのが嬉しい。読んでいて「そうそう!そうなのよ!」とめちゃ納得。違う本でも伊坂さんは書かれてますが、伊坂さんはローレンス・ブロックがたいそう好きで大きな影響を受けていると。伊坂さんもローレンス・ブロックも好きなので嬉しい♪

本当にこれで最後なのかな?いつかどこかの短編集にその後のケラーを書いてくれないかなぁ。といいつつも、これが理想の終わり方なのかもしれないなとも思った1冊でした。

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